パワハラ、転職、仲の良かった祖父の死、苦しみのピークに達していた時に救ってくれたのは、米津玄師さんの『WOODEN DOLL』という曲でした。
私はもともと双極性障害、不安障害を持っていて、学生の頃から常に焦燥感に襲われていました。
主な原因のひとつに親との関係があったため、就職して家を出れば、この苦しみから解放されると思っていました。
けれど、どれだけ自由になっても焦燥感はどこまでもまとわりついてきた。
その日も、起きると同時に体の硬直、焦燥感、恐怖感が私を襲い、心のなかで助けてと叫べども誰にも頼れず、とりあえずいつも通り時間が解決してくれるのを、布団の中で震えて待っていました。
ただ、その日たったひとつ違ったのは、冒頭でも話した米津玄師さんの『WOODEN DOLL』という曲を思い出したこと。
ラストサビ前の歌詞に、こんな一節があります。
ーーーでもね、失くしたものにしか目を向けてないけど
ーーー誰かがくれたもの数えたことある?
ーーー忘れてしまったなら 無理にでも思い出して
ーーーじゃないと僕は悲しいや
私はわらにもすがる思いで、この歌詞の通り自分がすでに持っているものを紙に書き出しました。
五体満足な体
友達
雨風をしのげる家
今も元気な両親(介護など考えなくていい)
体を休められるベッド
料理できる調理器具やキッチン
水が出る水道
寒くてもお風呂に入れる給湯
体を守ってくれる洋服
足を守ってくれる靴
スマホを持てている
スマホを持てるお金がある
etc…
とにかくどんな小さなことでも、一見当たり前で見落としてしまいそうなことでも、いろんなことを書き出しました。
すると、10、20個と出していくうちに涙が止まらなくなりました。
このとき、私は悲しかったわけではありません。
自分がいかにたくさん持っていたかを知ることができて、感謝の気持ちで涙が溢れてきたのです。
うつや不安障害などで落ち込みが激しいときは、どうしても自分を責めたり、『自分は何も持っていない』と落胆したりしがちになると思います。
私も、ものごころついたころから親から否定的な言葉ばかり浴びせられてきました。
勉強や運動は友達と比べられて、いつもダメ出し、褒められた記憶はありません。
体の弱い弟と違って健康な私はいつも後回し、甘えても「お姉ちゃんなんだから」「◯◯歳になってまだそんなこと言ってるの?」と甘えも許されない子供時代でした。
そんなふうに育ったため、もちろん自己肯定感は低く、何をするにも怖くて石橋を叩き割って進めないタイプ。
自傷行為も何度か経験しました。
だから常に、胸のあたりにぽっかり穴が空いたような感覚があり、何をやっても楽しくないし満たされない。
友達と会っているときは笑っていても、ひとりになったら表情が死ぬ。一人反省会が始まってどんどんネガティブになっていく…
『自分はなにも持っていない、だから不幸なんだ』
そんな思い込みに支配され、自分を責め続けていました。
私の場合、あの歌詞に出会うことで考え方を180度変えることができました。
今、自己否定感や焦燥感、満たされない気持ちで落ち込んでいる人、八方塞がりな人、周りには敵しかいないように感じている人、騙されたと思って、今自分が持っているものを数えてみてください。
本当になんでもいいんです。
喋れるとか、文字を書けるとか、本が読めるとか、そんなことできて当たり前だと思えるようなことでいいんです。
目が見えるとか、食事ができるとか、味がわかるとか。
万人に効果があるとは言えません。けれど、何も持っていないと思ってしまう方、現状から抜け出したいけど手立てが思いつかない方は、ぜひ一度、自分の周りに目を向けてみてください。
そして、今持てているものに感謝してみてください。
でも人間って傲慢なもので、一度気づけても感謝しても、時間が経てば忘れたりその感動が薄れたりするものです。
そうするとまた焦燥感が出たり自己否定したり、ネガティブな方向に陥ってしまうと思います。
そうなったらまた思い出してみてください。
自分が”今”持っているものを数えてみてください。
最初のうちは意識的に自分が落ちていることに気づかなければいけないので苦しいと思います。
でも思い出したときでいいです。何度でもやってみてください。
きっといつか、無意識で自分が持っていることを思い出せるようになります。
ただ、無理は禁物。我々のような自己肯定感が低かったり自責の念が強い人は、べき、ねば思考が強い傾向があります。
例えできなくても、自分を責めないでください。やろうと挑戦した自分が素晴らしいんです。
そして、本当に辛いとき、自力ではどうしようもないときは専門家を頼ってくださいね。
私の体験が少しでもお役に立てたら幸いです。
足りないと思っていた私は、もうすでに、たくさん持っていた。 そのことに気づけたあの日から、世界は少しだけ優しくなった気がします。
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